東京地方裁判所 昭和59年(ワ)6215号 判決
第一 原告の差止請求について
一 被告製品(一)についての差止請求
被告が、昭和五七年頃から被告製品(一)を製造販売したことは、当事者間に争いがないところ、原告は、現在も顧客の要請によつて被告製品(一)と同じタイプのものが使用されている以上、被告が今後ともこれを製造販売する蓋然性は高い旨主張し、被告は、昭和五八年七月中旬、被告製品(一)の製造販売を中止し、今後これを製造販売する意思はない旨主張するので、審案するに、原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、成立について争いのない乙第一号証によれば、被告の右主張事実を認めることができ、以上によれば、被告が今後被告製品(一)を製造販売するおそれはないものといわざるをえない。そうすると、原告の被告に対する被告製品(一)の製造販売等の差止請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。
二 被告製品(二)についての差止請求
1 原告が、昭和五七年一〇月一日、早川喜彦から本件実用新案権の譲渡を受け、同五八年四月二七日その旨の登録を経由したこと、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること及び被告が昭和五七年頃から現在に至るまで被告製品(二)を製造販売していることは、当事者間に争いがない。
2 右本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載及び原本の存在及び成立について争いのない甲第四号証(本件公報)によれば、本件考案は、次の構成要件からなる配管支持台と認められる。
(A) 各三個のナツトを具えた一対のボルト
(B) 所要の間隔をおいてボルト孔を両側部にあけ、両端部を下側に屈曲して釘孔を有する取付縁を形成した台座
(C) 台座のボルト孔に一致するボルト孔を両側部にあけた受座
(D) 受座のボルト孔に一致するボルト孔又は切込溝を両側部にあけ、中央部を彎曲して跨管部を形成したサドルバンド
3 右認定の本件考案の構成要件及び被告製品(二)の構造に基づき、被告製品(二)が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて、以下判断する。
(一) 本件考案は、右構成要件(A)及び(B)の構成を採るものであるのに対し、被告製品(二)は、別紙目録(二)記載のとおり、各二個のナツト4、4及び各一個の環状バーリング<4>を具えた一対の頭なしボルト<1>、<1>の構造を有するものであるところ、被告製品(二)を表示するものであることについて争いのない別紙目録(二)の記載及び被告製品(二)であることについて争いのない検甲第四号証によれば、右の環状バーリング<4>は、中央を円筒状に押出し成形し、その内周面に雌ねじを切つたものであつて、頭なしボルト<1>は、右の内周面の雌ねじに螺合し、カシメ止めによつて固定されていることが認められる。そこで、被告製品(二)の右構造が本件考案の構成要件(A)及び(B)に該当するものであるか否かについて検討するに、前掲甲第四号証によれば、(1)本件考案は、集合住宅におけるスラブ床上にガス管、水道管、給湯管等を配設する場合、床面に凹凸があつても、配管を所要の位置に簡易な作業で確実に配設することができるようにすることを目的として、前記実用新案登録請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであること、(2) 本件考案の配管支持台の使用方法及び作用効果を実施例に即して説明すると、本件考案の配管支持台は、本判決添付の本件公報の第二図に示すように、台座5の両ボルト孔6、6に両ボルト1、1を挿通し、ボルト頭部2とナツト4で台座5を締め付け、また、両ボルト1、1の中間部に挿着した受座9を上下一対のナツト4、4で保持し、更に、サドルバンド12の跨管部13を配管16に掛け、その両切込溝14、14をボルト1の受座9と上部のナツト4との間に嵌装した後、受座9とサドルバンド12の両端部を上下のナツト4、4で締め付け、更にまた、台座5の取付縁8とボルトの頭部2を床面18に接触させ、取付縁の釘孔7、7に釘17を打ち込んで固定するものであつて、右構成にみられるような各三個のナツト4を具えたボルト1、1、台座5、受座9及びサドルバンド12からなるものであるから、受座9とサドルバンド12を一体に締め付けているナツト4、4を上下調整することにより、配管16を所要の高さに正確に支持することができるとともに、ボルト頭部2とナツト4で締め付けてある台座5の取付縁8を床面18に釘着けすることにより、全体がぐらつくことなく、確実に支持することができるばかりか、スラブ床面に凹凸があるような場合でも、配管作業が大変容易となり、作業能率を増進することができるものであることが認められる。右認定の事実によれば、本件考案の各三個のナツトは、ボルトにはめて台座を締め付ける各一個のナツトと受座及びサドルバンドを締め付ける各二個のナツトとを意味し、また、台座のボルト孔は、ボルトを挿通することのできる文字どおりの孔を意味するものと解するのが相当である。そうすると、被告製品(二)の環状バーリング<4>のように、頭なしボルト<1>にはめて台座5を締め付ける作用を有せず、頭なしボルト<1>がこれに埋め込まれて固定されているものは、本件考案にいうナツトに含まれないものというべきであり、また、被告製品(二)の台座には、本件考案にいうボルト孔が存しないものというべきである。したがつてまた、本件考案と被告製品(二)とは、右のとおり構成を異にする結果、作用効果を異にすることも明らかである。以上によれば、被告製品(二)は、少なくとも本件考案の構成要件(A)及び(B)を充足しないものといわなければならない。この点に関して、原告は、被告製品(二)の環状バーリング<4>は、ボルト<1>を台座5に固定するための固定用ナツトであつて、埋込み「ナツト」である旨主張し、甲第八号証の二を挙示するので、審案するに、原本の存在及び成立について争いのない甲第八号証の一ないし四(一九八二年九月二〇日朝倉書店発行の「機械の事典」の抜粋)によれば、ナツトは、中心部に雌ねじを切つてある品物の総称であつて、ボルトと同等か、それ以上の強度を有し、ボルトと組み合わせて使用するものをいい、その形状及び機能などによつていろいろのものがあり、その中には、締結する相手材料ないしは部品の強度が低く、また、板厚が薄くて雌ねじを加工することができない場合に用いられる、打込み式あるいはねじ込み式の埋込みナツト類が存することが認められるところ、たとい、被告製品(二)の環状バーリング<4>が右の埋込みナツトに該当するとしても、右のような埋込みナツトは、本件考案にいうナツトが奏すべき作用を有せず、本件考案にいうナツトに含まれないことは、前認定のとおりであるところ、更に前掲甲第四号証を精査してみても、本件明細書には、右のような埋込みナツトが本件考案のナツトに含まれることを示唆するに足りる技術事項の開示があるとも認められず、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、内径部に雌ねじを切つた環状バーリング<4>の孔と連通する台座5の孔は、本件考案にいう台座のボルト孔に該当する旨主張するが、本件考案の台座のボルト孔は、ボルトを挿通することのできる文字どおりの孔を意味することは、前認定のとおりであつて、前掲甲第四号証によるも、本件明細書には、被告製品(二)の頭なしボルト<1>を固定した台座5の孔のようなものが、本件考案にいう台座のボルト孔に含まれることを認めるに足りる技術事項の開示があるとは認められないから、原告の右主張も、採用の限りでない。
(二) してみれば、被告製品(二)は、その余の点について検討するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないものというほかはない。
4 右のとおりであるから、原告の被告に対する被告製品(二)の製造販売等の差止請求は、理由がないものというべきである。
第二 原告の損害賠償請求について
一 被告製品(一)についての損害賠償請求
1 原告が、昭和五七年一〇月一日、早川喜彦から本件実用新案権の譲渡を受け、同五八年四月二七日その旨の登録を経由したこと、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること及び被告が昭和五七年頃から被告製品(一)を製造販売したことは、当事者間に争いがなく、また、被告が昭和五八年七月中旬被告製品(一)の製造販売を中止したことは、前第一、一の認定のとおりである。
2 本件考案の構成要件は、前第一、二2の認定のとおりである。
3 右本件考案の構成要件及び被告製品(一)の構造に基づき、被告製品(一)が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて、以下判断する。
(一) 被告製品(一)が本件考案の構成要件(B)ないし(D)を充足するものであることは、当事者間に争いがないから、被告製品(一)が本件考案の構成要件(A)を充足するか否かについて検討するに、本件考案の構成要件(A)は、各三個のナツトを具えた一対のボルトの構成であるところ、右の「各三個のナツト」は、前第一、二3(一)認定のとおり、ボルトにはめて台座を締め付ける各一個のナツトと受座及びサドルバンドを締め付ける各二個のナツトを意味し、また、右の「ボルト」は、前第一、二1認定のとおり、本件考案の実用新案登録請求の範囲において、単に「ボルト」と記載されていて、頭部付きのものに限定されていない。これに対して、被告製品(一)は、各四個のナツト4、4、4、<4>を具えた一対の頭なしボルト<1>、<1>の構造を有するものであつて、ボルトにはめて台座を締め付ける各一個のナツトと受座及びサドルバンドを締め付ける各二個のナツトを具えた一対のボルトの構造を具備しているのである。したがつて、被告製品(一)は、本件考案の構成要件(A)を充足しているものというべきである。この点に関して、被告は、本件考案のナツトは、ボルト一本について三個であるのに対し、被告製品(一)のナツトは、ボルト一本について四個であり、また、本件考案のボルトは、本件明細書の本件考案の作用効果の説明にみられるとおり、頭部付きであつて、ボルトと台座は、この頭部と一個のナツトによつて、台座のボルト孔に締め付けられ、固定されるものであることが明らかであるのに対し、被告製品(一)の頭なしボルト<1>、<1>は、文字どおり頭部のないものであつて、頭なしボルト<1>と台座5は、二個のナツト4、<4>によつて、台座5のボルト孔6、6に挟み付け、締め付けられて固定されるのであるから、被告製品(一)は、本件考案の構成要件(A)を充足しない旨主張する。よつて、審案するに、被告製品(一)は、各四個のナツト4、4、4、<4>を具えた一対の頭なしボルト<1>、<1>の構造を有するものであつて、被告が主張するように、ボルト一本について四個のナツトを具えたものであるが、本件考案は、前説示のとおり、ボルト一本について三個のナツトを具えることを構成要素とするにとどまるものであるところ、被告製品(一)は、本件考案の右構成要素を具備するものであるから、ボルト一本について四個のナツトを具えるという点は、被告製品(一)が本件考案の構成要件(A)を充足するとの前説示を左右するものではない。次に、本件考案のボルトが頭部付きボルトに限定されるか否かについて検討するに、前掲甲第四号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、本件考案の実施例の構成及び使用法の説明に関する記載の後に、「本考案に於いては、上記構成の如き各三個のナツト4を具えたボルト1、1と台座5と、受座9と、サドルバンド12とからなつているから、受座9とサドルバンド12を一体に締め付けているナツト4、4を上下調整することにより、配管16を所要の高さに正確に支持できると共に、頭部ボルト2とナツト4で締め付けてある台座の取付縁8を床面に釘着けすることにより、全体がぐらつくことなく確実に支持することができる。」(本件公報一頁二欄二八行目ないし三六行目)と記載されていることが認められ、右認定の事実によると、本件考案の実施例は、頭部付きボルトを用いる構成のものであつて、右構成のものにあつては、台座5は頭部2とナツト4によつて締め付けられていることが認められるが、右構成及び作用効果は、あくまでも実施例に関するものであるから、頭部付きボルトに関する構成及び作用効果の記載に基づき、直ちに本件考案が頭部付きボルトの構成のものに限定されるものというを得ないところ、前説示のとおり、本件考案の実用新案登録請求の範囲の項には、単に「ボルト」と記載されているだけであつて、頭部付きのものに限定されるような記載はなく、また、前掲甲第四号証によるも、本件明細書には、特に、本件考案が実施例のものに限定されることを示すような記載もないことが認められ、これらの事実に照らすと、前認定の本件明細書のボルト頭部2とナツト4で締め付ける旨の記載は、頭部付きボルトを用いた実施例に関する説明にすぎず、右実施例の奏する効果を含む本件考案に共通の効果は、全体がぐらつくことなく確実に支持することができる旨の記載に示されているものと認められる。そうすると、本件考案は、そのボルトを頭部付きのものに限定していないものというほかはない。そこで、更に進んで、被告製品(一)の構造についてみると、被告製品(一)を表示するものであることについて争いのない別紙目録(一)の記載及び被告製品(一)であることについて争いのない検甲第三号証によれば、被告製品(一)の頭なしボルト<1>とナツト<4>は、実質的にみて、構成上頭部付きボルトと異なるところはなく、また、作用効果についても頭部付きボルトと同じ作用効果を奏するものと認められるから、本件明細書に本件考案の実施例として示されている頭部付きボルトと実質上同一であるというべきところ、頭部付きボルトに代えて頭なしボルトとナツトを用い、ナツトで締め付けることにするようなことは、慣用技術であることは明らかであつて、当業者にとつて適宜なしうることであり、したがつて、実質的には、本件明細書にその開示があるものと認めることができる。なお、頭なしボルト<1>とナツト<4>を用いるときは、頭部付きボルトを用いるときには奏しない作用効果を奏するとしても、そのことは、頭なしボルト<1>とナツト<4>が、実質的にみて、構成上頭部付きボルトと異なるところはなく、また、頭部付きボルトと同じ作用効果を奏するとの前説示を左右しない。したがつて、被告の前記主張は、採用することができない。なお、被告は、本件考案の先行技術を示すものとして、乙第二号証ないし第五号証を挙示したうえ、右乙号各証記載の先行技術によると、本件考案の技術的範囲は被告の主張するとおり厳格に解釈されるべきである旨主張するが、成立について争いのない乙第二号証及び第三号証並びに原本の存在及び成立について争いのない乙第四号証及び第五号証によるも、右乙号各証記載の技術は、その技術内容に照らすと、少なくとも本件考案の構成要件(A)のボルトが頭部付きのものに限定されるべきことを示す先行技術であるとは認められないから、被告の右主張も、採用の限りでない。
(二) 右のとおりであるから、被告製品(一)は、本件考案の技術的範囲に属するものというべきである。
4 被告は、本件実用新案権を侵害したものであるから、その侵害行為について過失があつたものと推定されるところ、右推定を覆すに足りる立証はない。そうすると、原告は、本件実用新案権の譲渡の登録を経由した昭和五八年四月二七日から被告が被告製品(一)の製造販売を中止した同年七月中旬までの間の被告の侵害行為について損害賠償請求権を取得したものというべきところ、成立について争いのない乙第九号証によれば、被告は、右の期間内に二〇四〇個の被告製品(一)を販売したことが認められる。そして、原告は、被告は被告製品(一)を一個当り平均三八〇円で販売した旨主張するところ、右主張事実を認めるに足りる証拠はないが、被告は、一個当り平均三三〇円で販売したことを自認しているので、被告製品(一)の販売価額は、右の限度でこれを認めることができ、以上の事実によると、被告製品(一)の販売価額合計は、一個当り販売価額三三〇円に販売個数二〇四〇を乗じた六七万三二〇〇円である。次に、原告は、被告製品(一)の一個当りの販売利益は平均一五〇円である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。ところで、原告は、本件考案の実施料相当額について主張立証するものではないが、被告において、被告製品(一)の実施料率は被告製品(一)の販売価額の二%程度であることを自認しているので、被告の被告製品(一)の販売によつて原告が受けた損害の額は、右の限度でこれを認めることができ、以上の事実によると、右損害の額は、前認定の販売価額合計六七万三二〇〇円の二%である一万三四六四円である。
5 そうすると、原告の被告に対する被告製品(一)についての損害賠償請求は、一万三四六四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年六月一四日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は、理由がないものといわざるをえない。
二 被告製品(二)についての損害賠償請求
被告製品(二)が本件考案の技術的範囲に属しないことは、前第一、二3の判断のとおりであるから、原告の被告に対する被告製品(二)についての損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。
第三 結語
叙上のとおりであるから、原告の本訴請求は、損害賠償請求の一部について認容し、その余は、失当として棄却することとする。
〔編註その一〕本件における実用新案権は左のとおりである。
1 原告は、昭和五七年一〇月一日、早川喜彦から、考案の名称を「配管支持台」とする実用新案登録第一三九五四三〇号実用新案権(出願日昭和五二年四月一六日、出願公告日同五五年一二月一五日、設定登録日同五六年八月三一日。以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)の譲渡を受け、昭和五八年四月二七日その旨の登録を経由した。
〔編註その二〕本件実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
「各三個のナツトを具えた一対のボルトと、所要の間隔をおいてボルト孔を両側部にあけ、両端部を下側に屈曲して釘孔を有する取付縁を形成した台座と、台座のボルト孔に一致するボルト孔を両側部にあけた受座と、受座のボルト孔に一致するボルト孔又は切込溝を両側部にあけ、中央部を彎曲して跨管部を形成したサドルバンドとからなる配管支持台。」